「哭」(李恢成)

これも在日問題の一つの形なのでしょう

「哭」(李恢成)
(「日本文学100年の名作第7巻」)
 新潮文庫

在日二世どうし結婚した
「わたし」の義母が亡くなる。
義母は千葉県N市で
パチンコ店を細々と経営し、
なけなしの収入から
自分たち夫婦を
支援してくれていた。
義母の死から三年後、
「わたし」は思い立って
義母の故郷の島へ赴く…。

以前、
金城一紀「GO」を取り上げました。
在日二世を描いた作品です。
金城一紀は1968年生まれ
(朝鮮籍から韓国籍を経て
日本に帰化)ですが、
本作品の作者・李恢成
(朝鮮籍から韓国籍へ、
日本に帰化せず在日外国人)は
ほぼ一世代前の1935年生まれ。
したがって、その作品も
恋愛小説の衣をまとわせた
「GO」とは違い、
在日の思いが深く濃く、
より直裁的に表現されています。

【主要登場人物】
「わたし」
…語り手。在日二世。
 おそらくは李恢成自身。
景南(キョンナム)
…「わたし」の妻。在日二世。
丈母(ジャンモ:義母のこと)
…景南の母。在日一世。
 小さなパチンコ店経営。

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しかし、ここに表されているのは、
在日朝鮮人の受けている差別でもなく、
日韓問題そのものでもなく、
世代間の朝鮮の風習への
受け止め方の違いなのです。

「わたし」が一番違和感を覚えているのは
年に四回も行われる
先祖祭に対してです。
日本の仏教でも三回忌、七回忌と
行いますが、それが毎年、
年四回も行われ、その度に
実家へ帰らなければならないことに
疑問を感じているのです。
また、その先祖祭の際、
「哭」と呼ばれる、
大声で嗚咽する習慣にも
辟易としているのです。
「兄嫁の哭き声は
 今はなにはばからぬものになり、
 とうとう
 「アイゴォー。アイゴォー」という
 哭き女の堂々としたリズムに
 かわっていった。
 景南(「わたし」の妻)は
 顔を伏せたまま、
 何かをこらえていた」

義母とともに朝鮮の生活様式の中で
過ごしてきた兄嫁は、
「哭」を自然なものとして受け入れ、
親から離れ二世どうしの核家族で
暮らしてきた妻と「わたし」は、
それに引っかかりを感じているのです。

代がわりするたびに民族固有の風習は
失われていくのかもしれません。
異なる文化の中で
生活しているのですから
当然といえば当然です。
「わたし」が義母の出身地
(おそらく済州島)を訪ねたのは、
一世に対しての、「二世の
贖罪の気持ち」からなのでしょう。

これもやはり
在日問題の一つの形なのでしょう。
そして「国」とは何か、
「民族」とは何かという問題に
突き当たります。

「わたし」が感じていることを、
日本人である私が
十分に共感できているかといわれると
甚だ自信がありません。
李恢成の文学を
もう少し勉強してみたいと思います。

〔歴史的背景について〕
在日の問題、
朝鮮半島における南北の問題、
済州島の歴史、
日韓問題、
国籍問題、
特別永住者の問題、等々、
この作品を理解するためには
多くの知識が必要となります。
私もこれから
勉強していきたいと思います。

〔李恢成の作品について〕
「またふたたびの道」
  第12回群像新人文学賞(1969年)

「砧をうつ女」
  第66回芥川賞(1972年)

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「百年の旅人たち」
  野間文芸賞(1994年)

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〔金城一紀の「GO」〕

「日本文学100年の名作第7巻」
 収録作品一覧

1974|五郎八航空 筒井康隆
1974|長崎奉行始末 柴田錬三郎
1975|花の下もと 円地文子
1975|公然の秘密 安部公房
1975|おおるり 三浦哲郎
1975|動物の葬禮 富岡多惠子
1976|小さな橋で 藤沢周平
1977|ポロポロ 田中小実昌
1978|二ノ橋 柳亭 神吉拓郎
1979|唐来参和 井上ひさし
1979| 李恢成
1979|善人ハム 色川武大
1979|干魚と漏電 阿刀田高
1981|夫婦の一日 遠藤周作
1981|石の話 黒井千次
1981| 向田邦子
1982| 竹西寛子

(2022.10.13)

js jによるPixabayからの画像

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